白クマさんの書評部屋

書評・映画の感想のブログです。客観的な批評はできないので、「素晴らしい。全て間違ってる」と思って読んでください。

【フォースの覚醒が切り落とした物】小説 ブラッド・ライン 【感想】

クラウディア・グレイ著

"「エピソード7」の6年前――レジスタンス結成までの政争と混迷

リーダーシップを欠き混迷する新共和国。敵対する二大政党に属すレイア・オーガナ議員とランサム・カスタルフォ議員は、ある犯罪カルテルの実態調査のため協力することになるが、テロ事件に巻き込まれ――!"

 

はい。

ネタバレなしです。

 

スターウォーズの小説です。

簡単に説明するとジェダイの帰還とフォースの覚醒の間の話です。

フォースの覚醒では冒頭から刺激的な一文、刺激的なシーンから始まりましたね。

ルーク・スカイウォーカーが消えた・ファースト・オーダーが台頭した」

映画プライベート・ライアンをオマージュした、輸送される最中のストームトルーパーのカット。十字のセーバーを持った謎の悪役。そして無辜の村人の虐殺。

時系列的な前作のラストシーンで築かれた平和は跡形もなく消え去り、まるで秩序は崩壊してしまっているということが視覚的にも伝わってくる、アドレナリン全開な場面だった。

 

まぁ引き込まれますよね。

 

しかし自分の最大の関心事は、「EP6との間に政治的に何があったのか?」ということ。

もちろん旧作のキャラクターたちにも関心はありましたよ。

でもEP7製作決定と聞いたときに1番興味を引いたののは「EP6で完結した物語にどのように新しい章を追加するのだろう?どのように蛇足に見えない、違和感のない新作を構築するのだろう?」

ということ。

だから1番関心があったのは世界観なんですね。

 

別に政治劇自体はあんまり見たいとは思わなかった 笑

これは個人の嗜好の問題です。SWで政治劇をやるべきではないと思っているわけではありません。

 

ただ本当に「それをやるな」と要求するネット上のムーブメントが盛り上がり、JJがそれに応えた、という事実もあったのですが…。

("スターウォーズを再び偉大にするための四つのルール")

 

で、EP7はその関心に満足のいく答えを出してくれたかというと…

うん。そうではなかった笑

新共和国の政治の中枢であろう首都がある惑星はほとんど描かれず、中盤でスターキラー基地の攻撃で粉砕されます。

キャラクターに何があったのかは、断片的には明らかになったのですが、政治的な情勢についての説明はほぼなかった。

 

それが描かれているのが、このスピンオフ小説「ブラッド・ライン」です。

スターキラー基地の攻撃を恐怖に歪んだ表情で見上げていた、元老院の施設にいた女性の一人も脇役として登場します。

(コー・セラ)

 

まぁ、ファンなら勧められなくても読んじゃう内容ですよね。

 

主人公はレイア。

彼女はくだらない揚げ足取りばかり行っている元老院の議員たちにうんざりしている。政治の世界から身を引きたいと思っています。

そして新キャラクターのランソム・カスタルフォ。

彼は議員で、また理想主義者で、帝国のシステムを賛美し、その遺物をオフィスに飾っているような男です。

そんな水と油のような関係の二人がタッグを組み、犯罪組織の調査をすることになる、というストーリーです。

そこまで規模の大きくない問題である、事の発端。しかしそれは後のEP7に繋がる、巨大な陰謀が背後にあった…。

 

ポリティカル・サスペンスといった体のエンタメ作品です。

 

小説自体の面白さは、まぁまぁといったところでしょうか。

実のことを告白すると、自分はこの本を積読状態にしていました 笑

情けない話ですが 笑

 

個人的にはレイアというキャラクターにあんまり関心が持てませんでした。

もちろんレイアとハンの結婚生活を知りたいという方が多数であり、その期待に存分に応えているのですが、自分としてはあんまり興味がなかったかな。

 

現状に失望して、どこか情熱的な部分が薄れてしまった彼女は、あの物語の続編として、時間経過を考えれば地に足のついた描き方といえるでしょう。

 

まぁ現実ってそういうもの。。。

 

ランソム・カスタルフォさんもまぁ、よくいるキャラクターですよね。上に書き出した通りでは。

むしろスターウォーズの世界の政治家って情熱を秘めた理想主義者か冷酷で狡猾な戦略家ばかりじゃないか?!

そんなことはないか。

 

それと冒険の主人公パーティとして、ジョフ・シーストライカーというXウィングのパイロットとグリーア・ソネルという若い視点の脇役がいます。

 

前者は血気盛んな若者。正義感が強いが身の程知らずな一面もある。

ポー・ダメロンとよく似ています。

レイアが手を焼くところも似ている 笑

 

後者は落ち着いた女の子です。ミラー・ブライトという主人公パーティが登場する船の操縦を担います。

ハン・ソロとの関わりがあります。ハンの他者への向き合い方を本人以外の視線で語るキャラクターですね。

ネタバレを避けますが、この小説の読後も、その後が気になるキャラですよ。

 

【余談 少し面白いのが、ジョフは惑星"ガタレンタ"の出身なのですが、これってEP8に登場するホルド提督の出身地なのですね。

本編でホルドが現実世界の宗教的な概念がもとになっている言葉を口にする場面が印象的でしたが(以前のSW映画でもところどころ見られた)、それに違和感を持つ人もいました。

映画に連なる小説ではガタレンタについて情報が開示されることによって、それの補完になっている。

こういうところが面白いし収集欲を煽りますよね。憎めないなぁ 笑】

 

この二人視点のサブのお話も閑話休題的に挟まります。

四人とも上巻はあまり興味深いキャラクターではなく、あくまで映画を補完するための物語かな、という印象が強かったのですが、下巻のあたりでは興味深い変化が起こります。

彼らの続きが知りたいと思わされる物でした。(正直、グリーアとジョフの関係性に限って言えば消化不足とと言えるかもしれない)

 

あくまでファン向けが「ここが知りたかった!」という部分を気持ちよく教えてくれる小説、という印象ですね。

物語単体としてはポリティカル・サスペンスなのでわりと人を選ぶんじゃないかなと思います。

そこまで期待しすぎない方がいいかも。

 

ただ、問いたいのは 笑 こういった情勢の説明をEP7でほとんど触れなかったのは果たして正解だったのか?!ということです。

 

もちろん商業的には大成功なんでしょうが。

それにプリクエルというデータがあり、マーケティングして物語に何を組み込むか取捨選択した結果なんでしょうね。

 

でも正直にいって、EP7を見たときには「この世界はどうしてこうなってしまったの…?」と風の谷のナウシカのキャッチコピーと同じ文句が頭を駆け巡り、それが最後まで解消されなかった。

 

EP8も、その話はもう7で説明したでしょと言わんばかりの内容だった。

だからあんまり入り込めなかったんですよねー。

この小説を当時は積んでいたので、背景も詳しくは知らなかったし。

個人的には、スポーツ年鑑を盗まれて改変された2015年に迷い込んだマーティの気分だったよ。

 

そんなふうにフォースの覚醒が切り落とした物、企業の戦略にとって必要がないと判断された物語が開陳されるのが、このブラッドラインです。

 

自分と同じ疑問を抱えている方はぜひ読んでください。